ひょうたん補完計画 Part6


 ひょうたん補完計画







Part6: 1979年3月〜 1979年7月




掲載号ストーリー

冒険王79年3月号表紙
 79年3月号
79年3月号扉絵
79年3月号扉絵

9回表1対1ツーアウトの状況で試合を放棄し、球場を後にした武蔵中野球部。同じ頃武蔵中の職員室にも連盟から連絡が入り、応対する長野校長も想定外の出来事に困惑する。その頃、野球部の面々を乗せたバスは疲れて眠り込む部員達を乗せ、一路N県へと向かっていた…

79年3月号・学校にも試合放棄の連絡が! 今はゆっくり眠らせてあげたい…
学校にも試合放棄の連絡が! / 今はゆっくり眠らせてあげたい…

翌朝、日高家の兵太の部屋の前では弟のクリオ(ドングリ)が歯磨きを持って兵太が起きてくるのを待っていた。姉のあざみがやって来て、兵太を待つドングリに「疲れているのだからゆっくり寝かせてあげな」と忠告したものの、兵太は既に出かけた後だった。まだ夜も明けきらぬ城跡の石垣の上で山並みを見下ろしながらたたずむ兵太…

一方西川(ハム)の暮らしていた家には「売約済」の張り紙が。

79年3月号・兵太ン起きるの待ってるの 売られたハムの家
兵太ン起きるの待ってるの / 売られたハムの家

その家の前にたたずむハムの一家。妹のたえこは鍵の掛かった家の様子を無邪気に両親に尋ねるが、父親は言いづらそうに「もうよその人の家だからだよ」と応える。と、そこへ顔馴染みの牛乳配達が通り掛かり、ハムの父親に声を掛ける。

「里帰りですか?」と尋ねる牛乳配達に、力なく笑うハムの父親。牛乳を買おうというハムの父親に、牛乳配達は「いつもご贔屓にして貰っていた西川さんだし」とみんなの分の牛乳を奢ってくれる。その牛乳を飲みながら、ハムの父親の目から涙が流れる…

79年3月号・もうよその人の家だからだよ おいらのおごりですから!
もうよその人の家だからだよ / おいらのおごりですから!

牛乳配達の心遣いに、「久しぶりに人の情に触れた思いだ」と救われた想いの父親…

武蔵中の校庭では野球部の試合放棄をよく思わない生徒が、登校してきた生徒達に向かって一存で試合放棄を決めた田宮先生を糾弾する。野球部の試合放棄が武蔵中の他の部の肩身を狭くするのだと。だが、その時野球部応援団がその場に現れ、糾弾していた生徒達を一喝する。

79年3月号・人の情に触れた思いだ… 生徒と野球部応援団の小競り合い
人の情に触れた思いだ… / 生徒と野球部応援団の小競り合い

と、そこへ登校してくる兵太達野球部の面々。言い争いをしていた生徒と応援団も、兵太達の登校に息を呑んで事の成り行きを見守るが、兵太達は無言でその場を通り過ぎていった…

79年3月号・野球部、無言の登校…
野球部、無言の登校…

職員室の窓から生徒達の様子を見ている先生達。田宮先生を堂々と批判する生徒に、事態の大きさを懸念する先生達。そこへ元気よく部屋に入ってくる田宮先生。まるで人ごとのように外は大変な騒ぎだとうそぶく田宮先生に、教頭先生も「渦中の人はあなたですぞ」と渋い顔。そんな教頭先生の嫌みも意に介さないように「分かっています」と高笑いの田宮先生に橋本先生も少し安心したように苦笑する。

下駄箱で大きな封筒を手に田宮先生を呼び止める朝倉委員長。どうやら田宮先生は委員長に学校に張り出す原稿を依頼していたようだ。その様子に橋本先生も協力を申し出るが、田宮先生は「会議の時に無言で僕を責めないで」と冗談とも本音ともつかぬお願いで高笑い。思わず唖然とする橋本先生…

79年3月号・渦中の人はあなたですぞ ただ無言で僕を責めないで
渦中の人はあなたですぞ / ただ無言で僕を責めないで

かくて朝倉委員長の手になる試合放棄の経緯を説明する野球部々報が校内の各所に貼り出される。部報に群がり熱心に内容を読む生徒達…

79年3月号・貼り出された野球部々報
貼り出された野球部々報

会議室で始まった職員会議。出席した先生達からは田宮先生の試合放棄への批判的な意見が続く。一方、野球部室では兵太達が会議の成り行きを所在なげに待っていた…

会議では批判的な意見を述べる先生達に、田宮先生は「結果をみないで経過をよく考えて下さい」と訴える。あのまま試合を続行し、後になって判定に不正があったことを訴えても何故その場で抗議しなかったと責められるかも知れない。自分は最大限の抗議を行動に移したと考えている。大会が終了すれば何があったかはっきりするはずだと。田宮先生の信念に満ちた強い言葉に、批判を口にしていた先生達も思わず黙り込む…

79年3月号・始まった職員会議… 私は最大限の抗議を行動に移した
始まった職員会議… / 私は最大限の抗議を行動に移した

部室では会議の結果を待つ兵太達が、北都中との試合を思い返していた。田宮先生の試合放棄の判断を、自分の気持ちを分かってくれていると感じて嬉しかったという兵太に、他の部員達も賛同する。田宮先生の行くところいつまでもどこまでも一緒だという兵太…

79年3月号・先生が試合を放棄すると言った時は嬉しかった…
先生が試合を放棄すると言った時は嬉しかった…

かわい荘というアパートの階段を足取りも軽く上がっていくハムの父親。彼が開けたドアには「西川」の表札が。このアパートがハム達一家の新しい住まいだった。父親は武蔵中にハムの編入学の手続きに出かけての帰りだった。

また武蔵中に戻れると喜ぶハム。兵太達が大会から戻ったらこっそり駅に出向いて驚かそうと浮かれるハムに、父親が武蔵中のざわついた様子を語る。どうやら兵太達も既に学校に戻っているというのだ。

全国大会も終わっていないのに、野球部が学校に戻っている筈がないというハムに、更に父親は学校で田宮先生にも会ったという。監督である田宮先生だけが学校に戻っている筈がない。なんとも納得が行かないハムは通学路の橋の袂で武蔵中の生徒に話を聞こうとする。

  79年3月号・兵太達が既に帰って来ている? 田宮先生が学校にいたの?
兵太達が既に帰って来ている? / 田宮先生が学校にいたの?

学校帰りの生徒達に野球部が既に東京から戻ってきている事、しかも試合を放棄した事を聞かされ愕然とするハム。予想だにしなかった出来事に動揺するハムは突然誰かに呼びかけられる。

一方、兵太達も学校であざみからハムが帰って来ており、武蔵中に再入学すると聞かされる。ハムの再入学にいてもたってもいられない兵太は部員達と共に、ハムに逢いに行こうと走り出すのだが…

79年3月号・野球部が試合放棄!? 九ハムが武蔵中に再入学!?
野球部が試合放棄!? / ハムが武蔵中に再入学!?

79年3月号・ハムの家は売り払ったんじゃ?…
ハムの家は売り払ったんじゃ?…


冒険王79年4月号表紙
 79年4月号
79年4月号扉絵
79年4月号扉絵

学校帰りの生徒達から野球部が全国大会で試合を放棄したと聞かされ、信じられないような出来事に動揺する西川(ハム)を呼び止めたのは野球部OBの長池番長だった。番長は野球部の試合放棄を聞き、たまたま出会ったハムに自らの怒りをぶつけてきたのだ。念願の全国大会出場を果たしながら試合を放棄するという野球部の行動に番長は怒り、涙を流すのだった…

一方、ハムに会いに行こうと学校を飛び出してきた兵太達も野球部OBの橋本と出会う。「でっかくなったよな武蔵中は…」と真顔でつぶやき、そのまますれ違おうとする橋本に、野々宮(キャプテン)が「今度の試合放棄の事を言っているのですか?」と声を掛ける。

全国大会を放棄するとはどういう事だ! でっかくなったよな武蔵中は…
全国大会を放棄するとはどういう事だ! / でっかくなったよな武蔵中は…

79年4月号・試合放棄の事を言っているのですか?
試合放棄の事を言っているのですか?

橋本はキャプテンに、「『済んでしまった事』ですべてが片付くものではない。武蔵中OBとして今回の事件を快く思っていない。お前達自身で本当に正しかったか今一度考えて見るべきじゃないか」と言い残して去って行く。

武蔵中では怒りの収まらない長池番長が、掲示板に貼り出された野球部々報を破り捨て、居合わせた生徒達に兵太の居処を問いただす。要領を得ない生徒達の返答にいらだつ番長だったが、そこへあざみとすみれがやって来る。怖いもの知らずのあざみにすっかりペースを乱されてしまう番長。

『済んでしまった事』ですべてが片付くものではない 日高はどこだ!?
『済んでしまった事』ですべてが片付くものではない / 日高はどこだ!?

けどよ、あんな形じゃつらいぜ この俺をおちょくってんのか!?
けどよ、あんな形じゃつらいぜ / この俺をおちょくってんのか!?

…それぞれが今回の出来事を改めて考え直してみたものの、結局済んでしまった事はどうしようもない事なのだ。ということがはっきりしただけだった…

79年4月号・やっぱり、済んでしまった事はどうしようもない…
やっぱり、済んでしまった事はどうしようもない…

…っという訳で、気分を変えて鍋を囲み、盛り上がる野球部一同。その場にはあざみ、すみれ、ドングリやハムの一家も一緒だ。笑いの絶えない和やかな鍋パーティー。だが、兵太は宴たけなわな時刻になっても現れない田宮先生の、ぽっかりと空いた席が気になっていた…

和やかな鍋パーティー 田宮先生は…?
和やかな鍋パーティー / 田宮先生は…?

その頃、田宮先生は学校からの帰途、橋本先生と語り合っていた。田宮先生は職員会議で同僚の先生から言われた「それまで頑張ってきた部員達がかわいそうだ」という言葉が、心の中に引っかかっていたのだ。

担任として、監督として余りにも身近にいすぎたために、自分は部員達と以心伝心の関係なのだと思い込み、実は正しい判断を失っていたのではなかったのか?と少し弱気な発言をする田宮先生。そんな田宮先生に、橋本先生は「…信じる心が大切ですわ」と応じる…信じることが出来てはじめて理解し合う事ができるものだと…

ひとりよがりだったのかな… 信じる事で初めて理解し合えるものです
ひとりよがりだったのかな… / 信じる事で初めて理解し合えるものです

自分を正しいものと信じて兵太達はどこまでもついて来るだろうという橋本先生の言葉に、思わず「こわい…」とつぶやく田宮先生。部員達が自分を盲信し、自分の意志を持たない人間になってしまうのではないか?という思いが、田宮先生に恐れを抱かせた。

そんな気弱な田宮先生の様子に、「あの子達はそれぞれ意志を持っています。こんな時こそしっかりして下さい。」といつになく強い調子で田宮先生を激励する橋本先生。

79年4月号・…こわい
…こわい

その橋本先生の激励に田宮先生は、自分の言葉は橋本先生を好きだと言ったことを含めて全部本気だと、冗談とも本気ともつかぬ態度で橋本先生を翻弄する。

一方熱戦の続いていた全国大会は北都中が吉祥中を上條のダメ押しツーランで3対1と下し、優勝を飾っていた…

79年4月号・全国大会を制した北都中!
全国大会を制した北都中!

北都中の全国大会優勝を報じる野球部々報が貼り出され、それに群がる生徒達。部報には「優勝旗を武蔵中に献上したい気持ちだ」という北都中監督のコメントも載せられ、優勝校の監督自らが事実を認めた内容に気を良くする生徒達。

その頃、田宮先生は長野校長に呼ばれ校長室にいた。実行委員会から連絡があったというのだ…

優勝校の監督がこう言ってくれりゃ… 実行委員会から連絡があった…
優勝校の監督がこう言ってくれりゃ… / 実行委員会から連絡があった…

実行委員会は審判の不正があったことは認めて謝罪したものの、武蔵中の試合放棄を学生野球にあるまじき行為として、二か月間の対外試合禁止の処分を下したのだ。その処分に、「野球を離れて勉強に専念できるいい機会ではないですか」と応える田宮先生だったが、長野校長はそう答えた田宮先生の拳が小刻みに震えるのを見た…

更に北都中からも連絡があり、武蔵中に優勝旗を献上し、併せて親善試合をしたいという申し入れがあったことを告げる校長。だが、感情の高まりを抑えながらその言葉を聞いていた田宮先生は「出来るわけがないじゃありませんか」と言葉を絞り出す。

その言葉に秘められた無念さに、長野校長は田宮先生の悔しさを痛いほど感じていた…

二か月間の対外試合禁止… 悔しいだろうなぁ…
二か月間の対外試合禁止… / 悔しいだろうなぁ…

本当に優勝旗は武蔵中に来るのか?
本当に優勝旗は武蔵中に来るのか?


冒険王79年5月号表紙
 79年5月号
79年5月号扉絵
79年5月号扉絵

試合放棄をした武蔵中に対する中学野球連盟の処分は二ヶ月間の対外試合禁止という厳しいものだった。二ヶ月という期間の重さを噛み締めるような浜本(ハンサム)と野々宮(キャプテン)。 その頃、佐久間は武蔵中に再入学した西川(ハム)を屋上に呼び出していた…

連盟の処分… 長いようで短いもんだよな…
連盟の処分… / 長いようで短いもんだよな…

ハムに再び野球部に入部するのかを尋ねる佐久間。てっきり再入部するものと決めてかかっていた佐久間は気負って尋ねるが、ハムの答えは予想外のものだった。何とハムは野球部への再入部はしないというのだ。

兵太達と一緒にプレー出来なければ野球をやっていても楽しくないというハムは、武蔵中を転校していった時から野球をしていないと言うのだ。入部する意志はもうないのか?と念をおす佐久間の問いにもきっぱりとそのつもりはないと答えるハム。

戻ったからには野球部に入るんだろう? 入部はしないつもりだ
戻ったからには野球部に入るんだろう? / 入部はしないつもりだ

ハムが入部することで折角手に入れたレギュラーの地位が危うくなりかねなかった佐久間は、入部するつもりはないというハムの答えに安堵する。すっかり安心した佐久間は慌ててハムにここで自分はハムが入部しないように圧力をかけた訳ではないと念押しする。

79年5月号・入部するなとは一言も言ってないぜ
入部するなとは一言も言ってないぜ

一方グラウンドではやって来た兵太と長池(一寸法師)が、放課後になるというのにベースを片付けているハンサムとキャプテンに声をかける。何と対外試合だけではなく、練習も二ヶ月禁止になったというのだ。連盟の処分は対外試合禁止だけだったのだが、学校側も不祥事への責任をとる意味で長野校長が決めたというのだ。不祥事という言葉に納得いかない兵太。

自分たちの行動にやましいところはないと思っている兵太は、まるで自分たちが全面的に悪いかのような処分に怒り心頭、まして練習禁止の判断を自分たちに理解があると思っていた長野校長が下したと知ってショックを受ける。

練習も二ヶ月禁止に… こんな処置を受けて悔しくないのかよ!
練習も二ヶ月禁止に… / こんな処置を受けて悔しくないのかよ!

収まらない兵太は校舎に入るが、廊下で木下(ミミ)、諸星(ピーマン)、神戸(クチナシ)が何やら数字を言い合っている処に出くわす。窓から外を見下ろすと下には、木陰で読書する女生徒達が。

クチナシたちは女生徒達のバストのサイズを言いあっていたのだ。だが気分の収まらない兵太は、そんな話題にも入れず、その場を後にする。「好き者だった兵太が変われば変わるもんだ」と拍子抜けのクチナシ。

階段で兵太は屋上から降りてきたハムと出くわした。

こっちの立場も分かっちくりゃー! 変われば変わるもんだ
こっちの立場も分かっちくりゃー! / 変われば変わるもんだ

と、ハムの後ろからは何故か上機嫌の佐久間も階段を降りてきた。兵太は「随分ご機嫌じゃないか何をプレゼントした?」とハムに尋ねるが、プレゼントしていないと素っ気なく答えたハムの様子に「なんか言われたな?」と直感する。だが、その兵太に「関係ないよ」と答えるハム。兵太とハムの関係も以前とはどこか違っていたのだ。

その頃、N駅には何と全国大会を制した北都中ナインが優勝旗を携え、ユニフォーム姿で降り立っていた。更に一行には記者とカメラマンも同行していた。

言われたけど…関係ないよ 北都中ナイン、優勝旗を携え到着!
言われたけど…関係ないよ / 北都中ナイン、優勝旗を携え到着!

同じ頃、武蔵中にも北都中がN駅に着いたという連絡が入っていた。突然の北都中来訪に、表情硬く職員室を出て行く田宮先生。

一方、野球部の部室ではハムが部員達に野球部に再入部しないことを伝えていた。部員達も、家庭の事情を抱えたハムに無理矢理再入部を促す事は出来ない空気だ。そんな空気が部室内を支配する中、一人兵太だけは納得できない様子。

と、そこへ田宮先生が入ってくる。先生の顔色が悪い事にただならぬ事情を察する兵太。田宮先生は北都中がやって来たことを兵太達に告げる。

北都中が駅に着いた!? 顔色悪いですよ
北都中が駅に着いた!? / 顔色悪いですよ

田宮先生の言葉に驚く兵太達。だが優勝旗の献上は実行委員会に却下され、既に全国大会は正当な試合として成立している。そんな状況での北都中の訪問に口々に不満を述べる部員達。だが、田宮先生はスポーツマンらしく紳士的に北都中を出迎えるよう部員達に念を押す。

北都中を出迎えるため、玄関前に勢揃いした長野校長、田宮先生、野球部員達。とそこへ現れたのは開明中の住吉、五木、マイケル、それに荒川中の山形キャプテンという面々。

紳士的に出迎えるように頼むぞ 玄関前に勢揃いした一同
紳士的に出迎えるように頼むぞ / 玄関前に勢揃いした一同

北都中が優勝旗を振りかざしてすぐそこまで来ている。しかもカメラマンや新聞記者も一緒だと告げる住吉や山形。北都中が全員ユニフォーム姿なのに親善試合をするのかと長野校長に尋ねる住吉だったが、長野校長は連盟からも禁止されている事を理由に親善試合を否定する。校長の出迎えるだけという予想外の回答に、怪訝そうな表情の住吉。

試合放棄で処分されている武蔵中に、優勝旗を携えての突然の訪問。北都中の行動に口々に不満を口にする開明中や荒川中の選手達。その言葉に、田宮先生や長野校長の中にも北都中の非常識な行動に対する不満が頭をもたげ始める…

遂に武蔵中の校門に姿を現す北都中の選手達。同行するカメラマンにポーズを指示されながら、全国大会優勝旗を手にした上條を先頭にした北都中ナインが歩みを進める。

ポーズを指示するカメラマンの声が響く中、その光景を見つめる兵太、田宮先生、長野校長の脳裏には、集まった近隣ライバル校の選手達の言葉が思い起こされていた…彼らもまた、自分たちと同じようにこの北都中の行動を快く思っていないのだと…

武蔵中はなめられていると思いませんか? 遂に到着した北都中野球部
武蔵中はなめられていると思いませんか? / 遂に到着した北都中野球部

遂に武蔵中にやって来た北都中野球部。野球部の丸井監督が挨拶の言葉を述べながら差し出した右手を、長野校長は受けなかった。握手するよう依頼するカメラマンの指示にも応えない校長。

校長は丸井監督に事前連絡のない突然の訪問に遺憾の言葉を口にする。その横では、そんな校長の不満をまるで気に留めないように、カメラマンがストロボをたき続け、記者がポーズをとるよう要求する。

更にカメラマンが不躾なフラッシュを浴びせかけた時、遂に堪忍袋の緒が切れた長野校長はカメラマンを怒鳴りつけた…

突然の訪問、失礼ではありませんか? 写真を撮るのはやめたまえ!
突然の訪問、失礼ではありませんか? / 写真を撮るのはやめたまえ!



冒険王79年6月号表紙
 79年6月号
79年6月号扉絵
79年6月号扉絵

不躾なカメラマンを怒鳴りつけた長野校長。さしものカメラマンもその剣幕におもわずひるむ。更に校長はカメラマン達に向かって「我が校が優勝校の引き立て役をしなければならない義務はないはずだ」と言い放った。その校長の語気の強さに、記者もそばにいた三好(ニキビ)に「この人本当に校長先生かい?」と尋ねる始末だ。

訪問者に対する学校の最高責任者の発言とも思えないという記者。校長は田宮先生に向かって「我が校の野球部員が優勝旗に触れることを許可しません。」と言い置き、北都中の丸井監督に背を向けたまま「このままお帰り下さい」と、その場を立ち去ろうとする。

だが、さすがにその様子にたまりかねた北都中野球部の主将、上條は「お待ちください!」と大声で長野校長を呼び止めた。その声に歩みを止めた校長に向かって帽子を脱ぐ上條…

優勝校引き立て役の義務はないはずだ このままお帰り下さい
優勝校引き立て役の義務はないはずだ / このままお帰り下さい

79年6月号・脱帽する上條…
脱帽する上條…

上條は後ろに並ぶ部員達から、今回の不正の首謀者である中村を指名する。おどおどした様子で前に進み出ると不正を犯した反省の弁を述べる中村…

更に北都中ナインは皆帽子を脱ぎ、地面に跪くと「部員一人の責任は野球部全体の責任でもあります」と一斉に土下座をする。

『どうか僕一人を責めて下さい どうぞお許しください!
どうか僕一人を責めて下さい / どうぞお許しください!

だが、長野校長を始め、田宮先生や兵太達武蔵中野球部の面々は、この北都中の謝罪の様子を無言のまま見つめるだけだった…武蔵中の予想外に冷淡な対応に、土下座し続ける上條も動揺を隠せない。この様子に丸井監督も「北都中野球部は武蔵中野球部との友好関係を強く望んでいます。」と今回の訪問の趣旨を述べ、助け船を出すのだが、長野校長は素っ気ない対応を崩さない。

長野校長の対応に田宮先生や兵太達も、自分たちの悔しかった気持ちを長野校長が一人で背負い込んでいるのかも知れないと各々の胸の中で思う。開明中の住吉達も、謝罪と抱き合わせで武蔵中と友好関係を結ぼうとする北都中のやり方に、どこか都会っ子チームの抜け目なさを感じ批判めいた感想をもらす。

一方、土下座したものの、許しをもらえない上條。プライドの高い上條は、地面にひれ伏したまま詫び続ける自分に対する武蔵中の冷淡な対応や、近隣野球部員達の批判めいた言葉に自尊心を傷つけられ、我慢の限界を迎えようとしていた…

この冷ややかな態度はどうだ… これが武蔵中の出迎えの仕方か!
この冷ややかな態度はどうだ… / これが武蔵中の出迎えの仕方か!

自らの謝罪が全く受け入れられないのを悟ったとき、プライドを傷つけられた上條は突如自分の前に置かれた大会優勝旗を手に取ると、怒りの感情に身を任せ、長野校長めがけて優勝旗を思い切り投げつけた!

79年6月号・受け取れーいっ!!
受け取れーいっ!!

上條が力任せに投げつけた大会優勝旗!その鋭く尖った竿頭が切っ先をきらめかせながら長野校長めがけて飛ぶ!そして何と優勝旗はとっさに長野校長をかばった田宮先生の右脇腹に突き刺さった!
その瞬間、まるで稲妻に撃たれたような激しい衝撃が田宮先生を襲う!

血しぶきをあげ、崩れ落ちる田宮先生の身体!血まみれになって地面に転がる竿頭…田宮先生に襲いかかった凄惨な状況を目の当たりに、激しいショックを受ける兵太!!

優勝旗の鋭い旗頭が田宮先生に! まさか、突き刺さるなんて…
優勝旗の鋭い旗頭が田宮先生に! / まさか、突き刺さるなんて…

大好きな田宮先生を傷つけられた怒りに逆上した兵太は「絶対許せねぇ!」と叫びながら目に涙をため、狂ったように上條の顔面めがけて鉄拳を叩き込み続ける!

その様子にそばにいた諸星(ピーマン)、神戸(クチナシ)が慌てて止めに入るが、怒り狂う兵太は二人の制止をものともせず、頭を押さえた上條めがけて鉄拳の雨を降らせ続ける。
上條の血と自分の血、血まみれになる兵太の拳…

…田宮先生が搬送された病院の廊下では両手の拳を包帯でぐるぐる巻きにされた兵太が手当を受ける田宮先生の安否を待ち続けていた。隣に寄り添う野々宮(キャプテン)に、涙ぐみながら田宮先生への想いを吐露する兵太。「先生の血を見たとき、何が何だか分からなくなっちまったんだ」と…

貴様、よくも田宮先生をッ!! どうしていいか分からないくらい好きなんだ…
貴様、よくも田宮先生をッ!! / どうしていいか分からないくらい好きなんだ…

手術が終わり執刀した医師が手術室を出て来た。いきなり家族を確認する医師に、重傷だと思った長野校長は医師の言葉を待ちきれない様子で田宮先生の容体を尋ねるが、医師は傷そのものはそれほど重傷ではないと答える。だが、家族に確認したいことがあるという医師に、兵太は何かを思い当たる。

やがて東郷先生に伴われて千草と平八が息を切らせて現れる。医師は千草に容体は心配ないと告げたものの、千草と平八を別室へと誘った。彼らが医師と共に別室へ消えると、その場に残された人々の間には重苦しい沈黙が残された…

ご家族の方は? それよりちょっと別室へ
ご家族の方は? / それよりちょっと別室へ

病院を後にした兵太は、一人田宮先生の病気について想いを巡らせていた…かつて田宮先生が倒れた事を思い出し、その病気の再発を予感したのだ。

先生が訳の分からない病気を持っていた事は知っていた… きっとその病気が再発したんだ
先生が訳の分からない病気を持っていた事は知っていた… / きっとその病気が再発したんだ

一方、武蔵中ではこの異常事態にPTAや教育委員会も交えて緊急会議が行われていた。新聞には武蔵中の大会ボイコットや野球部員による暴力事件、さらには田宮先生重体という衝撃的な見出しが躍り、事態は野球部解散の噂もささやかれる最悪の展開を迎えようとしていた…

翌朝、田宮先生の病室では点滴を受け、眠っている先生に千草と平八が付き添っていた。その田宮先生の病室の窓を、病院の外からじっと見つめる兵太。兵太は必死に田宮先生の快復を念じている。

そんな兵太の様子に、あざみやすみれも心配そう。「ここにいても面会謝絶で会えない」というあざみの言葉にいらつき、思わず声を荒げた兵太だったが、そこへ現れたのは何と荒川中野球部OBの江戸川だった…

野球部を飲み込む最悪の事態… 田宮先生頑張ってくれよ…
野球部を飲み込む最悪の事態… / 田宮先生頑張ってくれよ…

江戸川さん…
江戸川さん…


冒険王79年7月号表紙
 79年7月号
79年7月号扉絵
79年7月号扉絵

病院の前で偶然出会った兵太と江戸川。二人は公園のブランコに腰掛け、佇んでいた。やがて江戸川は、かつて田宮先生が失踪した空白の三週間の事を兵太に語り始める…

空白の三週間、何と田宮先生は野球を教えて欲しいと江戸川を訪ねて来たという。野球部員に混じって練習や球拾い、用具運びまで進んで行う田宮先生の真摯さに、江戸川は自らの知っている限りの野球をアドバイスしたつもりだというのだ。

空白の三週間… 田宮先生が江戸川さんから野球を…
空白の三週間… / 田宮先生が江戸川さんから野球を…

あの頃は田宮先生にとって一番つらく苦しい時間だったかも知れないと語る江戸川。兵太が傍らの風呂敷包みに視線を送っていることに気付いた江戸川は、携えている包みの中身について兵太に話し始める。それはその空白の三週間、田宮先生が書きためた練習日誌で、江戸川に預かって欲しいと託してあったものだったが、平八から連絡があり、病院に届けて欲しいと言うことで届けに来たというのだ。

先生が今になって、しかも絶対安静の先生が、何故そんな昔の日誌を見たいと言ったのか、兵太にはそれがどうにも引っ掛かった。だが、江戸川にもはっきりとした理由は分からず、兵太には悶々とした思いだけが残るのだった…

柄にもなく花束を携え、田宮先生を見舞いに訪れた兵太。付き添いをしている千草の、「読書をしている」という答えに病室に入った兵太は、ベッドの上で漫画雑誌を顔に載せ、うたた寝をしている田宮先生の姿を見る。

「これは読書の内に入らないでしょう」とおどけて雑誌をどけた兵太だったが、田宮先生は目を閉じたまま一向に起きる気配がない。

どうして日誌など見るんだい? 花なんか買って来ちゃった
どうして日誌など見るんだい? / 花なんか買って来ちゃった"

てっきり田宮先生が自分をからかっているのだろうと、ムキになる兵太だったが、その兵太の背後で千草が田宮先生の様子に血相を変え、手にした花瓶を床に落としてしまう!

その千草の様子に、兵太は田宮先生の容体に只ならぬ事態が起こった事を直感し、思わず叫び声を上げる!

死んだように眠る田宮先生… こ先生ッ!!
死んだように眠る田宮先生… / 先生ッ!!

次の瞬間、自室のベッドで跳ね起きる兵太!
じっとりと寝汗をかいている兵太は、それが自分の夢だった事に気付いた…

遠くで電話のベルが鳴り続けている…
「いやな夢だった…」と息をついた兵太に、襖を開けて顔を出したあざみが電話だと告げる。

79年7月号・ふぅ…いやな夢だった…
ふぅ…いやな夢だった…

廊下で受話器を置かれた電話機の側へやって来る兵太。先程の悪夢を思い出し、いやな予感を抱きながら、おずおずと受話器を手にした兵太の耳に聞こえてきたのは、何と田宮先生の声だった。

思わず大声で確認してしまった兵太を「いきなり怒鳴るな、耳が壊れるじゃないか」とたしなめる田宮先生。先生の健在ぶりにほっと胸を撫で下ろした兵太だったが、田宮先生は放課後、速やかにレギュラー全員で先生を見舞いに来いという。

病院では電話を切った田宮先生の元気そうな様子に、具合を尋ねた千草が安心した表情を見せる。
付き添っていた平八からの連絡で、田宮家では田宮先生が生徒を連れて夕食に戻ってくるとの知らせに、帰宅した田宮先生の父、田宮平八郎が久しぶりに帰宅する息子の為に盛大な夕食会を準備するよう指示していた。

田宮先生かい!? 速やかに先生を見舞いに来い
田宮先生かい!? / 速やかに先生を見舞いに来い

その日の夕方、高速道路では高級車の車列が一路東京へ向かって疾走していた…
壮麗な田宮家に到着した武蔵中ナイン。一同はその邸宅の大きさに圧倒される…

久しぶりに帰宅した息子を、玄関でにこやかに出迎える平八郎。一同は食事の用意が出来るまで居間で待つことにするが、居間に通されたナイン達は、自分の家全部よりも広い田宮邸の豪華な居間に目を丸くする。

すっげえ家… 下層階級の俺達としては足がすくむ
すっげえ家… / 下層階級の俺達としては足がすくむ

居間で兵太は、椅子に腰掛けた田宮先生に退院できた訳ではないのかと尋ねる。先日まで絶対安静だった先生がすぐに退院できるとは、兵太には思えなかったのだ。今夜だけ外出の特別許可を貰ったという田宮先生の答えに、思わず言葉に詰まる兵太。

先生はナイン達に将来の事を聞きたいと話を向けるが、兵太は田宮先生の苦しそうな様子に何か違和感を感じていた。

最初に指名された野々宮(キャプテン)は、進学し、出来れば一生野球で生きて生きたいと語る。「その気持ちをいつまでも大切にな」と応じる田宮先生。 続いて指名された浜本(ハンサム)は、高校へ進み甲子園へ行くことが第一目標で高校卒業後は就職し、会社員になるつもりだと答える。

ハンサムの答えを聞きながら、田宮先生はまるで意識が遠のいたようにしばらく目を閉じたままでいたが、寄り添う千草に声を掛けられ、気がついたように「むしろ平凡に生きられる人生は幸せかも知れない…」と謎めいた言葉を発する。

そのやりとりを見ていた兵太は、先生の只ならぬ様子に「どうしてこんな話をするんだろう」と益々心をざわつかせる。

続く三好(ニキビ)はハンサムと同じように甲子園を目指すと言い、神戸(クチナシ)は受験に失敗したら実家の農業を継ぐと答える。

次々にそれぞれの目標を答えていくナイン達…

みんなの将来の事を聞きたい どうしてこんな話をするんだろう…
みんなの将来の事を聞きたい /どうしてこんな話をするんだろう…

そして西川(ハム)は働いて自分の家を取り戻したいのだと語る。だが田宮先生はなんと売りに出されていたハムの家を買っていた。更に先生はそれを毎月五百円の返済でハムに売ろうというのだ。

信じられないような田宮先生の話に目を丸くするハムとナイン達。田宮先生からの夢のようなハムへのプレゼントに意気上がる一同。喜ぶハムの顔を見て「喜んでもらえてよかった」と、ほっとしたような表情を見せる田宮先生。

そして最後に田宮先生は兵太に声を掛けると、額に脂汗を滲ませ、苦しげな表情を見せながら「お前は日本一の野球選手になれ!!」と力を込めた口調で兵太に告げる。更に畳みかけるように「これは先生の強い希望だ、約束してくれ」と続ける田宮先生。

田宮先生の突然の願いに一瞬戸惑った兵太だったが、その言葉に込められた田宮先生の強い想いを感じ、「田宮先生、おれ努力します。」と応じる。 兵太の返事に、満足気に頷いた田宮先生は、ナイン達の将来の希望を聞いて、安心したように「疲れた…眠りたい…」と静かに目を閉じる…

まるで眠るように椅子にもたれる田宮先生の周囲を、届いた飲み物を取り分ける、ナイン達の明るい声が取り巻いていた…

返済は毎月五百円 お前は日本一の野球選手になれ!!
返済は毎月五百円 / お前は日本一の野球選手になれ!!

田宮先生は眠るように目を閉じる…
田宮先生は眠るように目を閉じる…




「ひょうたん」 第一部 完






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