掲載号 | ストーリー |
78年9月号 |
78年9月号扉絵
八尾の本塁強襲で八回の裏、ついに勝ち越しを決めた尼崎中。だが八尾はキャッチャー神戸(クチナシ)との激突で頭の傷口が開き顔面血だらけ。クチナシも八尾の返り血を浴びて血まみれの状態になった。この凄惨な状況に、勝ち越しにもかかわらず誰一人喜ぶ者のいない尼崎中ベンチ。よろける八尾の様子に主審もドクターを呼ぼうとするが、八尾はなおも試合の続行を望む。
試合は続けさせてください
ベンチでぐったりとする八尾に、「我々はショーをやってるんじゃない!」と文句をいう監督。だが「またイメージでっしゃろ?」と切り返す八尾に、図星を突かれて引き下がるしかなかった。
またイメージでっしゃろ
試合は再開され、八回の裏尼崎中の攻撃。マウンド上の浜本(ハンサム)は流血のクロスプレーに動揺を隠せず、決め球のフォークボールが決まらない。フォアボールでノーアウトのランナーを出すが、続くバッターにもボール先行。カウントワンスリーとすっかりペースを乱してしまう。
フォークボールが入らない… / ハンサムどうした!
田宮先生はこの場面でキャッチャーをクチナシから野々宮(キャプテン)に替える。一点を争う緊迫した試合には、場数を踏んだキャプテンのリードに賭けたのだ。小さく的を絞るキャプテンのリードに、ハンサムもクチナシとは一味違う安定感を感じ、ツースリーのフルカウントに立て直す。
キャッチャー、キャプテン! / やはりひと味違う…
最後の一球にど真ん中のフォークボールを要求するキャプテン。コントロールに自信のないハンサムは渋々指示通りのコースに投げるが、キャプテンの作戦が的中しショートゴロ。二塁、一塁のダブルプレーでツーアウトランナーなしに立て直す。続く六番新田も衰えない球威で三振に切って取り、見事ピンチを切り抜け、武蔵中最終回の攻撃に入る。一方、疲労困憊の八尾はキャッチャーの呼びかけにも上の空の返答。だが、最終回の守備を迎えて武蔵中打線との最後の攻防に臨む。
よし、文句ないコース! / ナイスピー、ハンサム!
きれいに終わらしたる、見とれい!
打順は四番の兵太。だがマウンド上の八尾は場内実況の「ここでヒットが出れば打率七割五分、まさに八割打者の名に恥じない活躍になる」というアナウンスにいきなり大笑いを始める。「そいつは無理や」という八尾はすぐさまピッチングモーション。兵太めがけてビーンボールを投げる!
倒れながらもなんとかその球をかわした兵太。その兵太に八尾は「敬遠することだって出来るんや」と、勝負の主導権が自分にある事を強調する。その八尾の額に再び滴る血。打席に座り込んでいた兵太もまた、額の傷から出血していた。ゆっくりと打席に入った兵太に向かって八尾は敬遠など自分のプライドが許さないと全力投球!額の傷から血しぶきを飛び散らせながらもストライクを奪う。
日高さんよ、そいつは無理や / 敬遠することだって出来るんや
ワイのプライドが許せへん!
だが、血を滴らせる八尾の姿に、主審もタイムを要求。降板して傷の手当てをするよう忠告するが、兵太との勝負を臨む八尾はこれを拒否。「ここで降ろされたら泣くに泣けない」と続投を懇願する。
困惑した主審は尼崎中の八野監督を呼び、ピッチャーを交代させるよう要請するが、何と八尾監督も八尾の姿に続投を希望する。遂に八尾は「このイニングを降りたら僕の未来はなくなる」と、マウンド上で主審に向かって土下座で頼み込む。ひたすら兵太との勝負を望む、なりふり構わぬこの八尾の姿に、球場の観客も続投を大歓声で支持する。
いやだ、俺は降板などしない! / 降りたら僕の未来はなくなる
球場を包み込む続投支援の歓声!
遂に試合続行。兵太は八尾の内角に食い込むシュートをファウルにすると、タイムをとってバットのグリップエンドを一握り残し、短く持って構え直す。その兵太の様子に真っ向勝負で再びシュートボールを投げる八尾!だが兵太はその渾身のシュートを、センタースタンドを超える場外ホームランで叩き返す!
日高行くで〜! / 八尾の出血に比べりゃ…
センター方向一直線! / 九回土壇場の同点ホームラン!
九回土壇場に飛び出した同点ホームラン。ゆっくりとベースを回る兵太の姿に、自身が最も得意とする必殺シュートを完膚なきまでに打ち返された八尾は、無言のまま静かにマウンドを降り、ベンチへ向かう。ベンチで待ち構えた医務室の医師に連れて行かれる八尾。八尾を討ち取られた八野監督は大阪で自身を待ち受ける父兄の吊し上げに震える。
武蔵中ベンチでは戻った兵太の出血に、田宮先生が医務室へ連れて行くよう指示する。一方尼崎中は降板した八尾に代わり再びショート寺内を登板させるが、すっかり自身をなくし、配球も読まれた寺内は再登板におびえる。寺内の再登板に手ぐすねを引く武蔵中打線…
マウンドを降りる八尾… / メッタ打ちだ!
夕方、宿舎となった東京サンロードホテルにはうなだれ、無言で帰還する尼崎中ナインの姿があった。一方八対二の大差で勝負を制した武蔵中ナインは意気揚々の帰還。だが、ホテルに戻った東郷先生に西川(ハム)の家族の消息を知らせる電話がかかる。部屋へ電話をまわした東郷先生は、ハムの父親が今度は勤務先を北海道へ移された事を知る。
尼崎中、無言の帰還… / 西川の家族が北海道へ!?
その頃傷の手当てを受けた兵太は、血まみれの八尾の姿を思い出し、一人球場そばの広場でもの思いにふけっていたが、ふと目をあげた瞬間、視線の先の何かに気付く。
一方、宿舎のホテルでは、二回戦の相手が左右投げのピッチャーを擁する千葉県代表の米子中に決まった事が知らされていた。
兵太の脳裏に血まみれの八尾の姿が… / 二回戦の相手は千葉の米子中に!
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78年10月号 |
78年10月号扉絵
球場そばの広場で兵太が見たのは何と西川(ハム)の一家だった。
その夜、武蔵中ナインの宿舎である東京サンロードホテルの田宮先生の部屋に兵太から電話がかかってきた。時間は既に夜の10時半だったが、兵太は田宮先生と外で会いたいという。唐突な兵太の電話に、早くホテルに戻って寝ろという田宮先生。だが外であってくれなければ戻らないという兵太に、仕方なく兵太に会いに出かける。一方、兵太は夜の盛り場の喫茶店で一人田宮先生が来てくれるのを待っていた。
ハムの一家が! / 外で会いたい?
喫茶店の兵太…
だが、夜遅い時間に喫茶店に一人で田宮先生を待っている兵太に、見知らぬ若い男が声を掛けてきた。兵太を店から連れ出し金でも脅し取ろうと思っているのか、男はしつこく兵太に絡んでくる。だが兵太の素っ気ない態度が次第に男の癇にさわる。
その頃タクシーを飛ばして田宮先生が兵太に指定された喫茶店に急いでいた。だが、先生が店に着いたとき、そこには既に兵太の姿はなかった…
兵太は男のちょっかいにいたたまれず喫茶店を出ていたが、男はなおもしつこく兵太につきまとう。
君、まだ中学生だろう? / どう見ても東京のガキじゃねぇな…
頼むからほっといて下さい… / いつまでも下手に出てりゃいい気になりやがって
男が肩に手を掛けたのに、兵太が「離せよ」と返した瞬間、兵太の左頬に痛みが走り、頭の包帯が切れる。頬にできた傷からは血が滴る…何と男が手にしたナイフで兵太の頬に切りつけたのだ。
男は街のチンピラだった。「とんでもない奴と関わりになってしまった」と悔やむ兵太だったが、ナイフを手に自分と一緒に来るように迫る男を前に、兵太は相手と戦うか逃げるかの選択を迫られる。だが今自分がここで喧嘩をすればチームが出場停止になってしまう。
とんでもない奴と関わりになってしまった
逃げようとした兵太だったが、男が背後から投げたナイフが右肩をかすめる!兵太の右肩から吹き出す血!更に兵太をナイフで襲おうとする男。兵太は自身の軽率な行動を後悔するが、遂に我慢できず、近づいてきた男の顎を思い切り蹴り上げてしまう!
血しぶきを上げ、もんどり打って歩道にひっくり返る男!大の字に倒れ、動かない男を見おろしながら、兵太は「田宮先生ごめん…」とまたもや自分のせいで迷惑をかけてしまう田宮先生に詫びていた…
ツバをつけてみろってんだ! / 人を馬鹿にするなっ!!
翌朝、東京サンロードホテルのロビーでは長池(一寸法師)が昨晩兵太が戻って来なかった事をチームメートに話して騒ぎになっていた。一寸法師達はやって来た田宮先生にその事を隠そうとするが、田宮先生はその様子に兵太が夕べ戻って来なかった事を察していた。結局昨夜会えなかった兵太を案ずる田宮先生。
日高さん夕べ帰って来なかったよ / 一体何があったというのだ…
ハムの一家が身を寄せる旅館では、結局兵太からの連絡がなかった事に、ハムは「まだ僕たちの事情を兵太に打ち明けるべきではなかった」と後悔するのだった。その頃、朝の街角には僅かな所持金とパンや牛乳と共に座り込んだ兵太の姿があった。
まだ兵太には打ち明けるんじゃなかったね
昨夜のチンピラとの一件を思い返し、後悔する兵太だったが連盟にこの事を知られるのを恐れ、身を隠そうとあてもなく歩き始める。
隠れよう、俺さえ隠れていれば…
その頃、ホテルではナインたちが手分けして兵太の行方を捜し回るが、その行方はようとして分からない。だが、大会の二回戦を明日に控え、これ以上兵太の捜索に時間を割くことも出来ず、武蔵中ナインは練習に出発する。
一方、日も暮れ、行くあてもなく街をさすらう兵太は空腹を抱えて街路樹の根元に寄りかかっていた。所持金も電話連絡用の10円しかなく、道を行くパトカーのサイレンに、隠れるように街路樹の陰に身を隠す…
そんな恥さらしの真似ができるか / 頼む兵太、早く連絡をくれ…
翌朝、疲労と空腹でフラフラになった兵太は木の枝を杖代わりにヨロヨロと歩いていた。今にも倒れそうな兵太。その頭には交番で金を借りる事も浮かぶが、まるで自首するような行為に、思わず思いとどまる。さすがに空腹も限界で行き倒れてしまいそうな兵太。と、その時、どこからかそんな兵太の名を呼ぶ声が聞こえてくる。
びっくりして声の方を見ると、そこには大きなスーツケースを携えた若い女性が立っていた。見覚えのない女性に自分の名を呼ばれ、すっかり混乱する兵太。だが女性は何と田宮先生の妹、千草だった。やっとの事で自分を知っている人に巡り会えた安堵感で、兵太はその場に倒れ込んでしまった。
武蔵中の日高君じゃなくって? / 田宮卓二の妹です
その頃、球場では武蔵中と千葉県代表米子中の試合が開始されていた。米子中の大久保は左右両投げのピッチャーだ。試合は米子中の先攻で、武蔵中のマウンドには今日も浜本(ハンサム)が立つ。初球からストライクを決めるハンサム。
試合のスタンドには西川(ハム)も一家で観戦に訪れていた。試合に兵太が出場していないことに不安げなハム。対外的には兵太は突然の発熱による欠場ということになっていたのだ。武蔵中は米子中初回の攻撃を三者凡退に押さえベンチに戻る。すかさず野々宮(キャプテン)が田宮先生に兵太からの連絡があったかどうかを確認するが、未だに兵太からは何の連絡もなかった。
その頃、兵太はレストランで千草から食事をごちそうになっていた。久々の食事にようやく生き返った様子の兵太。自分に良くしてくれる千草に理由を尋ねた兵太は、田宮先生が自分の事を自慢だ、生きがいだと千草に語っていたと聞かされ、何とも言えぬこそばゆさを覚える。千草に行き倒れになっていた理由を聞かれ、ためらいながらも顛末を話し始める兵太…
兵太がいない、やっぱり出ていない / 日高君は兄の生きがいなんですって
球場での武蔵中と米子中の試合はボールコントロールの良い米子中、大久保の好投に武蔵中打線が苦戦、三回を終わって両者無得点と膠着状態が続く。ここ一番のチャンスが掴めず、ベンチの東郷先生も未だ連絡の取れない兵太にじれ気味だ。
兵太を伴い警察署にやって来た千草。いきなり警察署の窓口で自分の名を名乗る千草に、受付の巡査も怪訝な表情を浮かべる。
素っ気ない対応をする巡査に、奥の席に座っていた次長が千草の顔を見るや顔色を変えてやって来ると、千草と兵太を応接室へと案内するよう受付の巡査に命じる。言われるがまま千草と兵太を応接室に案内した巡査だったが、次長の豹変ぶりに怪訝そうな様子。すると同僚の年配の巡査が、千草が実は日本の政財界に大きな影響力を持つ田宮コンツェルンの総帥、田宮平八郎の娘である事を教えてやるのだった。
あのバカどこをほっつき歩いとる / これは田宮コンツェルンのお嬢様!
応接室に通された千草と兵太。千草は次長に兵太とチンピラの一件を話すが、田宮家の人間である千草からの申し出を忖度した次長は、そのような報告が入っていない事を理由に出来事そのものを不問に伏した「きっと悪い夢でも見たのだろう」と。
信じられないような展開に狐につままれたような表情の兵太。だが、ようやく自分が悪夢のような状況から解放された事を悟り、千草や次長に礼をいうと、パトカーで球場まで送るという次長の申し出も断り、神宮球場へと走り出す。
きっと悪い夢でも見たのだろう
一方、球場では両校無得点のまま九回裏武蔵中の攻撃もツーアウトランナーなし。このまま大会初の延長戦に入るかと思われる状況だったが、その時、ベンチの田宮先生に「代打をお願いします!」と呼びかける声が。驚く田宮先生やナイン達。なんとそこにはユニフォーム姿の兵太がバットを手に立っていたのだった。打席に入っていた諸星(ピーマン)に変わって打席に入った兵太はチームメート達やスタンドのハム達の声援を背に受けて米子中、大久保との対決に挑む。
代打をお願いします! / フレーフレー兵太!
兵太への初球、きわどいコースをついてストライクをとった大久保だったが、タイムを取ってファーストの田中と互いのグラブを交換する。何と田中も左右両利きで、大久保は田中のファーストミットを右手にはめると、今度は左投げで第二球のボディースイングに入る。だが兵太は大久保の二球目を痛打!何と代打サヨナラホームランとし、1対0で武蔵中は三回戦進出を決めるのだった。
大久保、グラブを交換 / 代打サヨナラホームラン!
まさに怪物、日高兵太!!
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78年11月号 |
78年11月号扉絵
武蔵中は千葉県代表の米子中を兵太の代打サヨナラホームランで破るが、米子中戦では兵太のホームラン以外打線が沈黙してしまい、試合内容が悪かっただけに2回戦勝利にもかかわらず盛り上がらない。ナイン達は試合内容のほかにも、一時行方不明だった兵太の事が気がかりだったのだ。
勝ったのにどうしてお通夜みたいなのよ! / 日高さんの事が気がかりで…
宿舎に引き上げてきた武蔵中ナインだったが、ホテルのロビーには黒ずくめのスーツにサングラスの男達がナインを待ち構えていた。いかにもヤクザを想わせるその男達のそばには首にギブスをはめたあの男、夜の喫茶店で兵太にしつこくつきまとっていたあのチンピラの姿もあった。兵太の姿を見つけ、声を掛けてくるチンピラ。喧嘩をしたことが公になりそうになり絶体絶命の兵太。
だが、引率の田宮先生の名を尋ねたヤクザのリーダーは田宮先生の顔を見て顔色を変える。リーダーは因縁を付けようとするチンピラを制すると、「自分は人違いをしたようだ、全国大会頑張ってください。」と突如態度を豹変、ロビーを立ち去る。
へっへへ、探したぜ… / もうだめだ、連盟に知られてしまう!
武蔵中野球部から治療費をせしめるつもりだったチンピラは突然のリーダーの豹変ぶりに狼狽し、不満を訴えるが、何とリーダーは田宮先生と大学時代の同期生だったのだ。田宮先生はその事に気付いていなかったものの、リーダーは田宮先生の顔を覚えていた。
ヤクザに落ちぶれ日陰の世界に生きる自分と、教師として日向の世界に生きる田宮先生…そのたどり着いた境遇の違いを眼前に突きつけられたリーダーは、配下のヤクザに武蔵中野球部への今後一切の手出しを禁じて去っていった…
あの田宮は大学での同期生よ…
絶体絶命の状況に追い込まれていた兵太は、事態の急展開にほっと胸をなで下ろすが、チームメート達が兵太にかけた言葉から、田宮先生はこの出来事が昨晩の兵太の失踪に関係があると気付く。
あとで先生の部屋に来てくれ / 人違いはないものだ…
田宮先生は、兵太を宿舎の自分の部屋に呼び、今までのいきさつを問いただすが、田宮先生の問いかけに対して兵太が差し出したのは何と退部届だった。「先生にもみんなにも迷惑をかけました、責任をとらせてください…」と昨晩の出来事を何も語らず一方的に退部届を出した兵太。そんな兵太に田宮先生は激怒、「責任をとる事の意味が分かっていない!」と兵太を殴り飛ばし、「皆に迷惑をかけた分をプレーで取り返せ!」と活を入れる。
なんだこれは!? / 責任をとることの意味が分かってない!!
田宮先生の平手打ちに吹っ飛ばされ、床に座り込んでいた兵太は、今までその優しさゆえ、時として不満さえ抱いていた田宮先生に思い切り殴り飛ばされ、「チンピラにナイフを向けられた恐怖の瞬間に、頭に浮かんだのは誰でもない、田宮先生だったんだ」と涙を流し、その思いを吐露する。
じわ〜んと来ちゃった… / 一番最初に浮かんだのは田宮先生だったんだ…
「今は全国大会以外の事は考えず野球に集中して欲しい、個人的な悩みや相談は大会が終わったときに聞こう。先生に出来ることならいくらだって協力する。」という田宮先生の真摯な態度に兵太も感銘を受け、田宮先生と固く握手。共に大会に専念することを誓う。
お前のいない武蔵中なんて考えられないのだ / 対決、武蔵中対北都中!
遂に三回戦の開始。武蔵中は先日敗退した本命校、尼崎中に次ぐ二番手候補の呼び声高い西東京代表、北都中との一戦を迎えていた。試合は三塁ベンチ前で力強く円陣を組み、気合いを入れる武蔵中の先攻だ。北都中のピッチャー上條は今大会屈指の長身。トップバッターの長池(一寸法師)はその大きさにすっかり呑まれてしまう。
武蔵中、気合いの円陣! / まるでマンモスだ”!
武蔵中ベンチもその雰囲気に呑まれそうになるが、兵太は先日田宮先生から言われた「チームへの迷惑分を取り戻せ」という言葉を思い出し、先頭に立って大声で一寸法師に檄を送る。その兵太に刺激され、皆で一寸法師を応援する武蔵中ベンチ。だが、ベンチの声援むなしく一寸法師、二番の諸星(ピーマン)と二者が倒れ、武蔵中はわずか6球で早くもツーアウトランナーなし。
チームへの迷惑分を取り戻せ… / わずか6球で早くもツーアウト
続く三番野々宮(キャプテン)に対して上條は何とフォークボールを繰り出す。だが、キャッチャー岩永は上條のフォークを捕球できずに後逸、振り逃げのキャプテンは一塁へのヘッドスライディングで辛くもセーフとなる。そして打順は四番の兵太に繋がるのだった…
岩永、パスボール! / キャプテン、振り逃げ!
兵太対上條!
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78年12月号 |
78年12月号扉絵
武蔵中対北都中の対戦は一回表、ツーアウトながら辛くも出塁した野々宮(キャプテン)を一塁に置き、バッターボックスに入る兵太。兵太への初球、これまでの剛速球から一転、スローカーブを投げる上條。
兵太は体制を崩しながらも上條のスローカーブをバットに当てる。打球はライトへ飛び、ボールを追ったライトは打球に突っ込むが、ボールはライトがグラブで捕球する直前に地面に落ち、ワンバウンドでグラブに入る。
その様子に思わずヒットを確信した兵太だったが、何と判定はアウト。ライト中村のファインプレーということになり、武蔵中初回の攻撃は無得点となってしまった。
上條、一転のスローボール! / え、そんなばかな
だが、北都中のライト、中村がワンバウンドの打球を捕球していることを見ていた兵太は、初回の攻撃につくためにベンチに戻ろうとしていた中村にその事を問いただす。だが中村は審判のジャッジを楯にその事を認めなかった。中村の態度に思わず拳を握り締める兵太…
結局武蔵中初回の攻撃は無得点となり、兵太はサードの守備につく。だが、兵太は先程の審判が敢えて選手の背後に回って判定していた事がどうにも納得できない。
今のはワンバウンドだった… / 絶対おかしいよ
北都中初回の攻撃はピッチャー上條が打席に入る。スタンドからは上條を声援する大声援。地元とはいえ、まるで英雄を迎えるようなその声援に思わず息を呑む武蔵中ナイン。だがピッチャー浜本(ハンサム)はこの状況にも動ぜず、上條に対しストレートとフォークでツーストライクに追い込む。
ライトの塁審どうかしているよ…/ 北都中ってこんなにも人気があるのか…
大歓声にも動じないハンサム!/ 見たぞ…フォークボール
上條への三球目、ハンサムのストレートをミートした上條の打球はホームランコースとなるが、上空の風に流されきわどいコース。ファウルになったと安堵する武蔵中ナインだったが、何とライト線審の判定はホームラン!北都中は上條の先制ソロホームランで1点を先制した。
ファインプレーで後続を断ち、初回の失点を1点に抑えてベンチに戻った兵太だったが、相次ぐ不可解な判定に何とも面白くない。
そんな兵太の様子に田宮先生が声をかける。先生は先日のホテルでのやり取りを兵太が気にしていると思ったのだ。あわててその事を考えていた訳ではないと否定する兵太は先程からの不可解な判定の事を言いかけたものの、いまだ確かな証拠もない状況にその事を飲み込んだ。
ファウルだ…よかった/ ホ、ホームランです!?
おれたちにツキはないのかな…/ さっきから引っかかる事があって…
その頃、スタンドで兵太達の試合を観戦していた西川(ハム)の一家は父親がスタンドを出て行こうとしていた。慌てて父親を引き留めようとするハムだったが、失業中の父親は家族を養うために働き口を探しに行こうとしていたのだ。
そんな二人の姿を球場の出口で見ていたタキシード姿の老人。老人は二人に近づくと声を掛ける。老人は東郷先生の兄で東郷平八と名乗った。平八は二人を球場裏の駐車場に止めてあった立派な外車に案内すると、旅館に預けてあった荷物を既にサンロードホテルに運んだこと、一家が全国大会終了まではサンロードホテルに滞在出来ること、宿泊代金の心配はいらないことを告げるのだった。
兵太達と同じホテルに泊まれると聞いて、ハムは無邪気に喜ぶが、ハムの父親は苦しげな表情を浮かべると荷物を旅館に戻して欲しいと訴える。平八に向かって「馬鹿にしないで下さい!」と怒鳴るハムの父親。平八がよかれと思ってした行為が、ハムの父親のプライドをひどく傷つけていたのだ。外車のボンネットに拳を叩きつけ、頭を抱えて苦悶する父親の姿を見て、ハムも平八も掛ける言葉が見つからなかった…
いいアルバイト先でも探して…/ 東郷平八と申します
そこまでして貰う義理はありません/ 馬鹿にしないで下さい!
その頃、試合は三回裏北都中の攻撃。打席の上條は既にツースリーと追い込まれるが、ここで流し打ち。打球は三塁線を抜けるかと思われたが、サードの兵太が横飛びで打球に追いつくとノーステップで一塁へ送球する。
すっかりアウトと思われたが一塁塁審の判定は何とセーフ、捕球の瞬間ファースト佐久間の足がベースから離れていたというのだ。佐久間は塁審に抗議したものの判定は覆らず、ツーアウト一塁。その様子を見て、一塁の上條は「僕らにはツキがある」と内心ほくそ笑む。
ノーステップで一塁へ!/ 僕らにはツキがある
一方度重なる微妙な判定の連続に、三塁を守る兵太は不信感を隠せない。観客はおろか審判員までが北都中側なら、自分たちに勝機はないと…
球場を飲み込まんばかりの疑惑の中、試合は続く…
俺達に勝機はない!!/ 疑惑の試合は続く…
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79年1月号 |
79年1月号扉絵
きわどい審判が続出し、不穏な雰囲気に包まれる両校選手。北都中は二番土矢の打席。ベンチの中村は先程からの微妙な判定が総て北都中に有利な事に気が気ではない。三遊間を抜くかと思われた土矢の打球をショートの野々宮(キャプテン)が止めると一塁送球!だが今度はセーフと思われたものの予想に反してアウトの判定となり、逆に北都中ナインから審判への不満の声があがる。
ジャッジに疑いを抱いていた兵太も今度は武蔵中有利のこのジャッジに混乱する。3回を終わったところで1対0と北都中リードの展開。
三回裏北都中ツーアウト一塁 / まずいよ…おじさん
何が何だか分からなくなってきた… / ん…?
兵太は守備につく北都中中村がライト線審と何事か言葉を交わしているのを見て、益々不信感を募らせる。4回表武蔵中の攻撃も諸星(ピーマン)がサードゴロでワンナウトとなり、仲々突破口が開けない武蔵中。
一方、スタンドで試合を観戦していた西川(ハム)の一家は駐車場から戻ってきた父親の号令で試合途中で球場を後にすることに。いつにない父親の強い態度に怪訝な様子の妹のたえこ。
球場を後にする彼らの後ろ姿を見送りながら平八は、東郷先生の書いた筋書き通りに進んだ展開を目の当たりに、複雑な想いだった…試合は野々宮(キャプテン)がショートゴロに倒れ、兵太の打順へと続く…
まかせろ、私は審判員だ…/ 不信感募る兵太…
帰る用意をしなさい… / 本当にこれで良かったのだろうか…
打席には立ったものの、数々の不審なジャッジに納得できない兵太はバッターボックスの一番外側に立ち、まるで敬遠するような体勢で微動だにしない。その様子に戸惑う武蔵中ベンチや観客…しかしツーストライクまで追い込まれたところで迷いを断ち切るように兵太は右中間へ痛烈な一打を放つ。
今でも信じる… / 兵太、抗議の敬遠?
やっぱりフェアプレーで行かなくちゃ! / 右中間への痛烈な一打!
だがセンターのカバーに入った北都中のライト、中村選手はここでまさかのトンネル。もたつく間に兵太は三塁まで進む。何とかホームへ還り、同点に追いつきたい兵太は続く五番三好(ニキビ)に三塁ベース上からスクイズのサインを出す。そのサインに驚くニキビ。追い込まれた北都中の上條投手がフォークボールで低めを突いてくること、キャッチャーの岩永がキャッチングがうまくないことを悟った兵太は、相手のパスボールを誘い、ホームスチールで同点を狙おうとしていたのだ。
中村くんトンネルだ?? / 兵太の決意
兵太のホームスチールを予期したニキビは左打席から右打席にスイッチし、ホームスチール備える。上條の第三球、ピッチャーのモーションと同時に猛然とホームに突っ込む兵太!ニキビは空振りするがキャッチャー岩永は兵太の予想通りキャッチングに失敗してパスボールとなり、兵太は生還、武蔵中は同点に追いついた。
何かサインを出してる / パスボールよもう一度!
ホームスチールだ! / ボールがない!?
武蔵中同点!
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79年2月号 |
79年2月号扉絵
4回表、兵太の無謀ともいえるホームスチールで、からくも同点に追いつく武蔵中。
ボールを見失うキャッチャー岩永…/ セーフですね!?
再びのパスボールで武蔵中を同点に持ち込ませてしまったキャッチャー岩永は、ピッチャー上條にフォークボールを捕球する自信がないと漏らす。そんな北都中の相次ぐ守備の乱れに、応援する観客からも不満の声が上がる。
六番の神部(クチナシ)を三球三振に打ち取ったものの、上條はホームスチールで1点を奪われるという展開に屈辱を感じていた…
フォークボールを捕球する自信がないよ… / ホームスチールで1点だと…
そんな中、武蔵中ベンチでは田宮先生がスコアラーの今野から報告を受けていた。何と先程から不可解な判定を繰り返していたライト線審は、北都中のライト、中村選手の叔父にあたると言うのだ。この事実に、この試合の不可解な判定の数々が田宮先生の中で一本の線に繋がった。
いいコントロールをしてるな / 叔父にあたる…?
その頃、試合途中で球場を後にした西川(ハム)の一家は既にN市に向かう列車の中にいた。最後まで兵太達の戦いを応援できなかった事を残念に思いながらも、武蔵中ナインが全国大会の優勝旗をN県に持ち帰る事を信じるハム…
一方、試合は一対一のまま最終回武蔵中の攻撃。一番長池(一寸法師)がここまで好投していた上條からフォアボールで出塁すると二番諸星(ピーマン)がバントで一寸法師を二塁へ送る。ワンナウト二塁の場面で打席には三番野々宮(キャプテン)。武蔵中にとっては絶好の逆転チャンスだ。だがそんなチャンスを迎えたというのに、兵太は今まで何度も疑惑の判定をしてきたライト線審が、また何かしてくるのではないかと気になって仕方がない。
一足先に帰って待ってるよ / みんなの処へ帰れるんだもの
できるものならやってみろ! / 公平なジャッジをしていないような…
そんな中、キャプテンの打った大飛球がライトに飛んでいく。スタンドぎりぎりに飛んだボールを、なんと身を乗り出した観客の男性が素手で捕球!キャプテンは野球規則によりアウトになり、武蔵中は逆転のチャンスを逸してしまう!
頼む、グラブに入ってくれ! / 何と観客がボールを捕球!
武蔵中には勝たせない… / 観衆も審判もみんなグルだ!!
さらに続く兵太の打球も相手投手のアウトコース攻めでライト線上に飛ぶ。ここでも一塁塁審とライト線審のジャッジはフェアとファウルに分かれ、審判の協議となってしまった。
度重なる不可思議なジャッジに思わず叫ぶ兵太!この異常な事態に田宮先生も抗議、ライト線審に疑惑の判定を迫るが、審判への暴言ととった線審は田宮先生に退場を命じる。先生は遂に試合の放棄を宣言し、武蔵中は9回表1対1ツーアウト攻撃中の状態で試合を放棄、球場を後にしてしまった。
武蔵中、三回戦での試合放棄という異常事態に、全国大会は事実上の空中分解!果たして球場を後にN県に向かう兵太達武蔵中野球部を待つものは…
一体どっちなんだよ! / こんなケチのつく試合なんてもう沢山だ!!
武蔵中はこの試合を放棄します! / 全員引き上げだ!!
球場を後にする武蔵中ナイン… / 武蔵中野球部を待つものは…
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