SUB:御町内特撮救助隊SFXボイジャー(238L)
RE:386
洋上軌道。
徐々にスピードを上げ、列車が動き始める…

車内。
ゆっくりと後ろに動き出す周囲の風景…

動揺が車内に広がってゆく…
その様子を真剣な表情で見つめているリエ…

通路上のインフォメーション・ディスプレイ。
その速度表示が徐々に数値を上げてゆく…

リエ、コミュニケーターのスイッチを入れる。

リエ
「(小声で)…こちらリエ、こちらリエ…」

コミュニケーターからゲンザブロウの声。

ゲンザブロウ(声)
「…こちらゲンザブロウ。」

リエ
「あ、お爺ちゃんッ!」

ゲンザブロウ(声)
「…ウム。…どうじゃ、そちらの様子は?こちらはショウイチとユキコさんが今、アース・ムーバーで出発したところじゃ。」

リエ
「列車、動き出したわ。もうあんまり時間が…」

ゲンザブロウ(声)
「そうか…(考え)…ケンタは?」

リエ
「今、ドアを開けに行ってるわ。」

ゲンザブロウ(声)
「…ラピッド・スターの操縦、彼奴に任せられるかの?」

リエ
「え?…(微笑み、うなづく)…大丈夫。ケンタなら出来るわ。」

ゲンザブロウ(声)
「…ウム、随分熱心に練習しておったしな。ではケンタにはラピッド・スターで外側から列車の減速をさせるんじゃ。…それからリエ、お前には列車のコントロール・システムを切り離す役目をやってもらうぞ。」

リエ
「ウン。…でもどうすればいいの?」

ゲンザブロウ(声)
「方法はワシが指示する。…しかし、時間に余裕がないな…何かこちらに映像を送れれば、作業がはかどるんじゃが…」

リエ
「待って…」

バッグの中をゴソゴソと探すリエ。ビデオ・グラスを取り出す。
してやったりという表情のリエ。

リエ
「…あるわ。ビデオ・グラスのカメラから、コミュニケーターで映像を送信できる。」

ゲンザブロウ(声)
「いいぞ。…よし、もう時間がない、早速行動開始じゃ!」

リエ
「ウン!…(回線を切り替え)…ケンタ!」

デッキ。
ケンタが点検ハッチにまだ頭を突っ込んでいる。
ゴソゴソやっているケンタ。
心配そうにその様子をみているエリカ。

エリカ
「(覗き込み)…ケンタ君?」

ケンタ
「…もう…ちょっと…」

ドアの上部にある表示パネル。
小さな電子音と共に、その表示が『UNLOCKED』に変わる。

エリカ
「(表示パネルを見て)ケンタ君、開いた!」

ハッチから頭を抜くケンタ。得意気な表情。

ケンタ
「(嬉しそうに)言ったでしょ?オレに任せとけって。」

エリカ
「(微笑み)…ウン!」

と、ケンタのコミュニケーターからリエの声。

リエ(声)
「ケンタ、ケンタ!」

ケンタ
「(スイッチを入れ)姉ちゃん!」

リエ(声)
「ドアは?開いた?」

ケンタ
「ウン、今開いたゾ!」

リエ(声)
「いい?良く聞いて。あたしはこれから列車のコントロール・システムを切り離すわ。だからケンタはラピッド・スターで外側から列車を押さえて減速させるの。できる?」

そのリエの言葉に、ケンタの表情に緊張が走る…

ケンタ
「え?…オレが……操縦を…」

一瞬、間があき、考えているケンタ…
心配そうなエリカ。その手が、ケンタの手をそっと握る…

リエ(声)
「(心配そうに)ケンタ…」

心持ちうつむき、考えているケンタ。
しかしやがて、その表情に決意の色が浮かぶ…

ケンタ
「…やる。…姉ちゃん、オレやってみる。」

リエ(声)
「(嬉しそうに)ウン!…いい?ラピッド・スターももう列車の真上に着くわ。…乗り移る時は充分注意するのよ。」

ケンタ
「ウン!」

コミュニケーターのスイッチを切るケンタ。
一つ大きく深呼吸する…

ケンタ
「エリカさんはここで待ってて。必ず…必ずオレが助けるから…」

真剣なケンタの眼差し。エリカはその眼差しに黙ってうなづく…

ケンタ
「(つぶやき)…行くぞッ…」

ドアの非常開閉スイッチを押す。
鈍い圧搾空気の排出音と共に、ゆっくりとドアが跳ね上がってゆく…
デッキに海風が音を立てて吹き込んでくる!
ドアの外に広がる一面の海原。
時折、トラス橋の鉄骨がドアのすぐ外を、風を切りながら飛び去ってゆく!

ケンタ
「(ひるんで)もうこんなにスピードが…」

吹き込む風に時折吹き飛ばされそうになるケンタ。
手摺に掴まりながら、ドアから身体を乗り出す。ラピッド・スターを探す…

ケンタ
「ラピッド…スターは?…」

空を見回すケンタ。
と、そのケンタの目が、列車のやや後方、ゆっくりと接近してくるラピッド・スターの機体を捉える。

ケンタ
「…居たッ!(コミュニケーターに向い)ラピッド・スター、こっちだ!オレを乗り移らせてくれッ!」

ケンタの声に応えて、ラピッド・スターのメインドライブが出力を上げる。
機体を陽にきらめかせ、ラピッド・スターの機体がゆっくりと接近してくる…

リニア管制センター。
喧噪に包まれた管制センター。オオツカ警部が到着する。
緊張した表情でオオツカを迎えるニシオカ達。

オオツカ
「警視庁科学捜査一課、オオツカです。」

ニシオカ
「軌道管制室主任、ニシオカです。」

オオツカ
「(うなづき)…軌道への進入ルートは?」

ニシオカ
「先程ご連絡した経路で結構です。既に現地に係員が待機中、部下の方々が到着次第、軌道内へ誘導します。」

オオツカ
「わかりました。…(コミュニケーターのスイッチを入れ)…ワンディム!」

ワンディム(声)
「…ワンディムです。今、軌道へのゲートに到着しました。これから軌道に進入、所定位置で待機します。」

オオツカ
「分かった。」

軌道進入ゲート。
巨大な鉄製のゲートが開けられており、作業員が待機している。
黄色の警戒色で塗られたステーション・ワゴン、そのパトライトの点滅する屋根越しに、ロボット・チームの機体が砂塵を巻き上げながら、ゲートを潜り、軌道に進入してゆく…ロボット・チームを誘導する作業員…地面の凹凸に、ワンディム達の機体が時折、大きく揺れる…

管制センター。

オオツカ
「軌道への電源供給を断つ事は、やはりできませんか?」

ニシオカ
「(困惑して)…はぁ。変電設備から緊急停止システムまで、考え得る手段を総て講じてみたのですが…(オオツカを見て)…このシステムには何重ものフェイル・セーフ・システムが備えられています。設計段階でも起こり得る事態を何度も検討し、結果、敢えてメカニカルな停止システムを設けなかった程、信頼性の高いシステムなのです。それが、こんな…私には、とても信じられません!絶対に起こる筈ありません!」

まくし立てるニシオカの肩に、そっと手を置くオオツカ。

オオツカ
「(穏やかに)ニシオカさん…」

その感触に、我に帰るニシオカ。

ニシオカ
「(オオツカを見て)…す、済みません、警部…」

オオツカ
「いえ。…(気分を変える様に)…それより今は、如何に列車の乗客達を安全に救出するか、その事に集中しましょう。」

オオツカの言葉に黙ってうなづくニシオカ。

オオツカ
「とにかく、時間がなさすぎる…今は少しでも減速させて、あのカーブを通過させるしか…」

ニシオカ
「…お願い…します…」

うなづくオオツカ…

洋上軌道。
光る海の上、列車が徐々に速度を上げながら走っている…
その列車に寄り添う様に、飛行するラピッド・スター。

デッキ。
既にスピードがかなり上がっている。
開いたドアから猛烈な勢いで風が吹き込み、轟音を上げながら渦を巻く!
手摺に掴まり、タイミングを図っているケンタ。

ラピッド・スターがマニピュレート・アームを差し出し、ギリギリまで列車に接近しようとしている…

ケンタ
「いいぞ、ラピッド・スター、もうちょっと…もうちょっとだ…」

さらに接近しようとするラピッド・スター…

その瞬間!ケンタの隣でエリカが悲鳴をあげる!

エリカ
「ケンタ君!!」

瞬間、振り向くケンタ!トラス橋の鉄骨が、凄まじい勢いで接近して来る!!

ケンタ
「ラピッド・スター、よけろッ!!」

ケンタの声に、思いきりヴァーティカル・ジェットを噴射し、距離をとるラピッド・スター!殆ど同時に、鉄骨が空を切ってケンタ達の目の前をよぎる!!

ケンタ
「うわッ!!」

乗り出していた身体を引き、エリカをかばうケンタ。
デッキに倒れる。
身体を起こし、ドアの外を過ぎる鉄骨の列を見る…

ケンタ
「く、くそー…」


〜 つづく 〜

~ 初出:1996.10.10 Nifty Serve 特撮フォーラム ~

Copyright: ohshima 1996, 2009