2期のウルトラシリーズは、そのカラー、世界の変化の激しさでも、非常に印象的ですが、このダイナミックな変化の根底にいるキーパーソンと言うと、大体以下の各氏に集約されるのではないかと思います。(以下敬称略)

1.上原正三:「帰ってきたウルトラマン」でメインライターを担当。それ以前にシナリオを担当していた「柔道一直線」のカラーを「ウルトラ」に持ち込み、主人公(=ウルトラマン)の成長をも描こうと試みる(=>「努力するウルトラマン」の誕生)。また、成長する主人公をとりまく世界と、周囲の人々を現実感をもって描こうとした(=>時代設定のリアルタイム化、ホームドラマ的な要素の導入)。

2.市川森一:「ウルトラマンA(エース)」でメインライターを担当。第一期への回帰ともとれるスケール感指向とホームドラマ排除、SFミリタリードラマ的な展開を目指すが失敗、シリーズは再度ホームドラマ的な世界を模索する事に…また、市川が離れた時点で「A」はエピソードのバラエティ化、イベント化が一気に進行した。

3.田口成光:「ウルトラマンT(タロウ)」「ウルトラマンレオ」でメインライターを担当。視聴年齢の低下を受けて、「T」では「A」後期のバラエティ性と、ホームドラマ的な視点を突き詰め、ストーリーの中心に絶えず子供を据える作劇を展開した。「レオ」ではこの視点に更に、「努力するウルトラマン」を再び取り入れて苛烈な作品世界を展開、シリーズの両極端を極めた。

 ぁ一般に話題にのぼるのは大体この3氏であり、殊に田口成光なんかは、「ウルトラ」のメインライターを2作品連続で担うという、金城哲夫以来の偉業を達成したにもかかわらず、第一期からのファン層には「ウルトラをいじり倒した男(!)」として、正直あまりいい印象を持たれてなくて、ちょっと可愛そうな処もあるんですが…

 般に、第2期に於ける「ウルトラシリーズ」の質的変化は、競合番組の内容的な変化、視聴者の低年齢化、連作によるマンネリ化打開等の、外的要因によるものが大きいと言われがちですが、その一方でスタッフ内部からの変質という点にも、この変化を読み解く大きな鍵が隠されているのではないでしょうか?

 の内的変化の「台風の目」とも言える人物が、今回取り上げようと思う石堂淑朗ではないかと思います。田口成光と並んで第二期総てのシリーズでシナリオを執筆した人物。現在でも週刊誌の「世紀の暴論」等で時たま名前を目にする、この人物、一体どんな人なのか?と言うと…

石堂淑朗(いしどう としろう):1932年広島県生れ。東京大学文学部独文学科卒。シナリオ作家、コラムニスト。1955年松竹大船撮影所演出部に入り、渋谷実監督に師事。のちシナリオを書くが、1960年独立プロを結成。大島渚と共同で「太陽の墓場」「日本の夜と霧」を執筆。のちフリーのシナリオライターとして活躍。ほかに「非行少女」「暗室」「無常」「曼荼羅」「黒い雨」「現代の青年像」「顔を見ればわかる」「辛口気分」など。1991年日本シナリオ作家協会会長、1992〜1996年日本映画学校校長。1996年近畿大学教授に就任。

シナリオ賞(第12,15回・昭35,38年度)「太陽の墓場」「非行少女」;年間代表シナリオ(昭45,58,平元年度)「無常」」「暗室」「黒い雨」;アジア太平洋映画祭脚本賞(第34回)〔平成1年〕「黒い雨」;日本アカデミー賞脚本賞(第12回)〔平成2年〕「黒い雨」

 何と日本シナリオ界を代表するライターの一人なんであります。実相寺監督のATG時代の代表作である、「無常」「曼荼羅」等もこの方のシナリオですね。それでは、第2期「ウルトラ」に於ける石堂脚本を挙げてみましょう。


ウルトラシリーズ石堂淑朗執筆作品(1971〜1975)

「帰ってきたウルトラマン」

第20話「怪獣は宇宙の流れ星」(マグネドン登場)
第23話「暗黒怪獣星を吐け!」(ザニカ登場)
第30話「呪いの骨神オクスター」(オクスター登場)
第34話「許されざるいのち」*潤色(レオゴン登場)
第36話「夜を蹴ちらせ」(ドラキュラス登場)
第40話「まぼろしの雪女」(スノーゴン/ブラック星人登場)
第42話「富士に立つ怪獣」(パラゴン/ストラ星人登場)
第43話「魔神月に咆える」(コダイゴン/グロテス星人登場)
第47話「狙われた女」(フェミゴン登場)

「ウルトラマンA」

第16話「怪談・牛神男」(カウラ登場)
第21話「天女の幻を見た!」(アプラサール登場)
第28話「さようなら夕子よ、月の妹よ」(ルナチクス登場)
第33話「あの気球船を撃て!」(バットバアロン登場)
第38話「復活!ウルトラの父」(スノーギラン登場)
第41話「怪談!獅子太鼓」(シシゴラン/カイマンダ登場)
第43話「怪談!雪男の叫び」(フブギララ登場)
第45話「大ピンチ!エースを救え!」(ガスゲゴン登場)
第46話「タイムマシンを乗り越えろ!」(ダイダラホーシ登場)
第47話「山椒魚の呪い」*共同脚本(ハンザギラン登場)
第49話「空飛ぶクラゲ」(ユニバーラゲス/アクエリウス登場)
第50話「東京大混乱!狂った信号」(シグナリオン/レボール星人登場)
第51話「命を吸う音」(ギーゴン登場)

「ウルトラマンT」

第7話「天国と地獄島が動いた!」(ガンザ/ダカ−ル登場)
第9話「東京の崩れる日」*潤色(アリンドウ登場)
第14話「タロウの首がすっ飛んだ!」(エンマーゴ登場)
第20話「びっくり!怪獣が降ってきた」(フライングライドロン登場)
第23話「やさしい怪獣お父さん!」(ロードラ登場)
第28話「怪獣エレキング満月に吠える!」(再生エレキング登場)
第37話「怪獣よ故郷へ帰れ!」(ヘルツ/メデューサ星人登場)
第39話「ウルトラ父子餅つき大作戦!(モチロン登場)
第46話「白い兎は悪い奴!」(ピッコロ登場)
第49話「歌え!怪獣ビッグマッチ」(オルフィ/カーン星人登場)
第52話「ウルトラの命を盗め!」(ドロボン登場)

「ウルトラマンレオ」

第32話「さようならかぐや姫」(キララ登場)
第50話「レオの命よ!キングの奇跡!」(ブニョ登場)

 色、共同脚本を含めて全35本ですから、64本でダントツの田口成光の次にランクされる数の多さ。上原正三脚本の29本をも上回り、実に市川森一脚本の倍以上の数があります。

 かし、こうやってタイトルを並べてみると、かなり題材に偏りがある事に気がつきます。とにかく非常にユニークな話、オカルト的な話は殆ど完全制覇!この要素って、極論すれば第二期のシリーズそのものを象徴するカラーと言えます。例えば一般には田口氏のイメージが強い「T」のシナリオ(実際、数の上から言えば、田口脚本は全21本と「T」全体の半分弱を占める)も、こと「ヘンな」エピソードに関しては、その殆どを石堂脚本が占めております。実は田口脚本、「T」の中では地味な部類なんですね。石堂脚本は「T」の中でも屈指のブッ飛びエピソードであるモチロンの回もモチロン担当。特に3クール以降、門下の阿井文瓶と共に、驚くべき世界を構築してくれております。実は良く指摘される「T」の頓狂なイメージって石堂、阿井のエピソードに殆どのオリジンがあるのであります(なんせ数はそれ程でもないのに、やたら印象が強烈で、「T」全体がそんなカラーだと一般に思われているのはご存じの通り)

 リーズを経るにつれ、石堂脚本のカラーが、執筆作品の多さと、その凄まじいエネルギーで、徐々にウルトラの世界観を従来の「SF」「疑似科学性」の世界から「祟り」や「怨霊」の息づくアニミズム的混沌の世界へと、裏側からスライドさせて行き、表の流れである「視聴対象年齢の引き下げ」「ホームドラマ性の導入」等の要素と共に、シリーズの質的変化を促進させた、非常に重要な要素になっているのではないでしょうか。第2期、特に「T」や「レオ」の根底に流れる「おどろおどろしさ」には、石堂脚本にその大きなルーツがある様に思えます。第2期における急激な「ウルトラシリーズ」の変質には、様々な外的要因と共に、石堂脚本が周囲のライター陣に与えた影響(何と、阿井脚本炸裂!のモットクレロン登場編、第43話「怪獣を塩漬けにしろ!」は、モチロン編に触発された結果生まれた作品!)による内的要因も、大きな要素だと言えるでしょう。

 ウルトラ」を変えた男、石堂淑朗。シリーズに対する功罪は別としても、なかなか興味深い人物であります。

モ チ ロ ン