さて、遂に実相寺昭雄監督による「ウルトラマンティガ」第37話『花』が放送されました。最近は「イラストレーテッド」の方で感想を書く事が多いのですが、さすがに皆さん今回はそんなに待てないだろうと、別枠を設けてみました。とりあえず"おおしま"は今回の作品をこう観ましたという事で…

直なところ「やはり実相寺監督は、どの作品を撮っても実相寺監督であったなぁ」というのが第一印象でしたね。ただ、ATGを経た監督の映像は、かつてのウルトラシリーズで見せたドライで硬質な「実相寺ヴィジョン」ではなく、「ウルトラQ・ザ・ムービー」と同様、どろりとしたウェット感に富む、きわめて日本的な映像でした。

語としては、多分実相寺監督が原案を書くという事が決まった時点で、こういうテイストになる事は決定づけられていたでしょうね。実は今回、薩川昭夫氏の脚本というのが、一番楽しみだったんですが、殆ど実相寺監督の世界観でした(いやはや…)。やはり今回の「ティガ」は、実相寺監督による「私家版ウルトラマンティガ」という位置付けで観るべきエピソードでしょう。ただ、脚本的にハッとさせられたのは、イルマ隊長とサワイ総監の会話です。あの会話は、きっと「ティガ」の他の脚本家の方では描けないと思います。いままでのエピソードの中では残念ながらあんな深みのある会話を聞いた事がありません。力のあるライターは、やはりどの作品にも不可欠な要素ですね。

トーリーについてはとやかく言いますまい。今回のエピソードに関してストーリーは、監督が自分の撮りたい映像世界を実現させるための、単なる手段に過ぎないのですから(かと言って、稚拙なドラマになってるって訳じゃないですから、誤解のない様に)。このエピソードは、多分、満開の桜が持つ魔力が映像的に描ければ、それで良かったんだと思います。でも「ティガ」で梶井基次郎の名を聞くことになろうとは思いませんでした。出典は「桜の樹の下には」という短編(と言っても梶井作品は殆ど短編ですが…)。腐った死体から吸い取った養分で、満開の花を咲かせる桜というヴィジュアル・イメージが強烈な作品です。

撮は、火薬が…火薬が…(いやはや…)。ちょっとスタッフの方が火薬になれていない様で、「わびしさや 散り行く花の 頼りなさ 空しき後に 煙たなびく(詠み人知らず)」。池谷仙克デザインについては週末の「イラストレーテッド」の方で書きますので、そちらをお待ち下さい(いやはや…)。ただ今回は特撮にもかなり実相寺監督の意向が投影されてる様ですね。「歌舞伎」のシーンは恐らく実相寺監督の担当だと思います。

括してみると、やはりヴィジュアル・イメージの凄さでは、今だ日本映像界でも抜きん出た存在であると言えるでしょう。ただ、自分の映像の為に、作品を私(わたくし)してしまう傾向は、ますます強くなっている気がします。しかも監督と(本来の)視聴者とのベクトルのズレは、かなり拡大が進んでいるという印象です。映像としては素晴らしいが、「ウルトラマンティガ」のシリーズとしてみた時にどうなのか?この辺りは再考して頂きたい気がします。しかしながら、故大木淳吉氏のクレジットされる最後(厳密には後一本あるのかも知れませんが)の作品という事で、何処か感慨深い作品でもあります。

1997.05.18